教育現場におけるタンギングに関する諸問題について

教育現場におけるタンギングに関する諸問題について

文: 小西恒夫

教育現場におけるタンギングに関する諸問題について、あくまで個人的観点からまとめてみました。
(ここでいう教育現場とは小学校の鍵盤ハーモニカおよびリコーダーの学習現場のことです。)

 

 

1.タンギングに関する基本的な誤解

まずは「楽器を使った音楽表現の段階」について、ざっくり整理してみましょう。

  1. 音を出す(持ち方、構え方含む)
  2. ドレミを覚える(音域拡大含む)(※1)
  3. 自分なりのニュアンスを味わう
    (※1)「ドレミ」と表記しましたが、勿論それ以外の音も含みます。
    ちなみにリコーダーなら現場では「シラソ」ですね。

 

基本的には上記の順に、各フェイズを重複したり反復したりしながら「上達」していきます。
「タンギング」は上記3.に分類されます。

考え方としてはスラーや音量変化、ビブラートなどと同じ「音楽表現の引き出し」のひとつです。
(例えばギター奏者がピックで弾くか指で弾くか、のような。)

これを上記1.と勘違いするとハマります、
以下のように。。。

(起)タンギングは「トゥートゥー」だから、発音のスキルだろう。
(承)たしかにリコーダーで「フーフー」ってやるのはなんだか下手っぽいもんなぁ。
(転)じゃあ音を出す時は全て「トゥートゥー」ってやんなきゃダメなんだ。
(結)そっか鍵盤ハーモニカも吹く楽器だから「トゥートゥー」じゃなきゃダメだな。

 

 

2.タンギングとは

そもそも「タンギング = トゥートゥー(Tの発音)」という
これ1種類だけで話を進めてしまっているから、こういう誤解が生まれるのです。
(ただし小学生に「T」以外のタンギングを指導する、という話では決してありません!後述します。)

(以下、しばらくリコーダー中心に話を進めます。)

母音の選び方などは省きますが、
タンギングに「T」と「D」があるとイメージしただけで・・・
もうこれは立派な音楽表現です。

そして「T」と「K」を組み合わせたら・・・
超絶技巧への扉が開かれます!

(リコーダーのタンギングにはもっと種類がありますが、ここでは省きます。)

さらに、タンギングは「発音」つまり「音の開始」だけでなく、
「音の終止」にも関与している(関与できる)ことも、是非理解して欲しいです。

説明がややこしいですが、「連続している『前の音』の終わり方(閉じ方・切り方)と
『次の音』の開始キャラクター(TとかDとか)は密接に関連しており、
一回のタンギング(音と音の区切り地点)がその双方に関与している」ということです。
(あー動画じゃなきゃダメだ~!)

「タンギング」はスキルでもあり、概念でもあるのです。

特にリコーダーにおいては「アーティキュレーションそのもの」と言えます。

 

 

3.タンギングの必要性

(リコーダー中心に、話を進めています。)
よくよく考えてみると「タンギングの必要性」という言葉、非常に曖昧です。

「タンギング学習の必要性」なのか、または誰かにとっての「タンギングの必要性」なのか?

もしこれを「(教師目線での)タンギングの必要性」と解釈すると、
ひねくれ者の私は「あ、採点のために必要なんだな」と思えてしまいます。

では誰にとってタンギングが必要なのでしょう?

「演奏者(生徒さん)がタンギングを欲している」とも言えますが、
正確には「音楽」そのものが、タンギングを欲しているのです。

よく「この子はどうしてもタンギングが出来ない」と、現場で話題になることがあります。
じゃあその子は「トゥー」の発音が出来ない?・・・訳ではありませんよね。
その子はただ「そういう吹き方を欲していない」だけなのかもしれません。

根本的な話になってしまいますが、
なにも全員がリコーダーや音楽を得意になる必要はないですよね。
リコーダーよりも歌うのが好きな子もいますし、かけっこが得意な子だっています。

タンギングは確かに見た目に、いや聞いた目に分かり易いスキルです。
ですがそれの「出来るか・出来ないか」という判断は
例えば「かけっこで何秒以下なら失格」と同義であるように、私には思えます。

 

とはいうものの、やはりリコーダーにとってのタンギングは、とても大事です。
リコーダーが「ニュアンスを表現できる楽器」であるための、絶対必須条件です。
生徒がリコーダーに対して少しでも興味があるのなら、根気強く教えてあげたいと私は思います。

 

 

4.他楽器へのタンギング流用

利用、活用、流用・・・言葉として何ら間違ってませんが、先にこれだけは言っておきます。

「楽器」は、「楽器」なのです。

例えば「鍵盤ハーモニカを『ピアノの歌い方の練習用』として活用する」という、言葉。

趣旨、方向性は分からなくもないですが、単純に上記のような一言にしてしまうことによって、
もう鍵盤ハーモニカは「楽器」ではなく、
なんだか練習用のよく分からない「モノ」になってしまいます。

「鍵盤ハーモニカでのタンギングを、リコーダーでのタンギング学習につなげる。」

現場で頻繁に耳にする(口にする)この言葉・・・よく考えて扱ってください。
この言葉と「タンギング = トゥートゥー云っときゃいいんだ」という短絡思考が結びついて、
「教育現場におけるタンギングに関する大きな誤解」を形成してはいないでしょうか。
仮に「舌の使い方という意味でのタンギングをすること」が最大の目的であるというのなら
小学校の数年間をそれに費やしてやればいいのでしょうけど・・・
それではあまりにも本末転倒ですよね。

教育楽器は「トゥートゥーマシン」ではありません。
「鍵盤ハーモニカ」「リコーダー」という「楽器」です。

 

話を本題に戻しましょう。

楽器には、それぞれ固有の「その楽器のもつ音楽表現」というものがあります。
前述の「T」や「D」なども、私はあくまでも「リコーダーのタンギング」としてお話ししました。
では鍵盤ハーモニカでは「T」や「D」は無いのか・・・そういう話ではないんです。

まずは一つひとつの楽器と、ちゃんと向き合いましょう。
そしてそのうえで複数の楽器を習得することによって、様々なものが見えてきます。

実際、私はリコーダーのタンギングと出会うことにより、他楽器のタンギングや
音楽そのもの(フレージングなど)についての理解が、より深まりました。
楽器間における「共通点と相違点」が見えるようになったからです。

このように、何かの楽器のタンギングをそのまま「流用」することはできません。
ですがその楽器で得られた経験・知識は、
別の楽器を演奏するときに「生かす」ことが出来るのです。

「何かのために何かを流用する」のと、
「一つひとつの経験を積み重ねる」こととは、まったく意味が違います。

 

 

5.鍵盤ハーモニカのタンギングについて

先ほどのお話の続きとして、鍵盤ハーモニカにも固有の音楽表現があります。
その一つ、非常に重要な要素が「打鍵による発音」です。

つまり「リコーダーではタンギングでしか出来ない音楽表現」が、
鍵盤ハーモニカでは「タンギングでも出来るし、打鍵でも出来る」という事です。

「打鍵とタンギング、どちらで吹かせたらいいのですか?」
これまた現場でよく耳にします。

決めるんですか?
決めるのならまずあなたが実際に吹いて、どちらがどうなのか、やってみてください。

きっと、音楽がもっと楽しくなると思いますよ!

そして「ここは打鍵だけでやってみよう」とか、
「ここは柔らかいタンギングでやってみよう」というふうに、
音楽を自分で作れるようになると思います。

語弊を承知で云いますが、子供だって楽しめる楽器です。
なら子供になったつもりで、遊んじゃいましょう!
それこそが本当の「音楽」だと、私は思います。

上記の答え(打鍵かタンギングか)を、少なくとも「リコーダーでタンギングをやるから」
という理由で決めるのは、とても「音楽」とは言えません。

 

 

6.教育現場における効果的なタンギング学習について

さて、ここまでのお話は
「現場で指導される先生方に是非とも知っておいていただきたい『知識』」として書きました。
「小学校で音楽を教える・学ぶ」ということの意味を、私なりに、まっすぐに考えて書きました。

私は小学校の教師ではありませんので、随分と現実離れした意見を述べているのかも知れません。
そこは何卒ご容赦下さい。

それから、ここまでのお話を「このように生徒に教えるのだ」と、誤解しないようにして下さい。
ここまでの文中、そしてこのあとも、私は一切具体的な指導方法については述べていません。
具体的な指導方法については、また別の機会に必ず発表いたします。

 

話を本題に戻しましょう。

例えば、好きな人に手紙を書くためには・・・文字を覚えなければなりません。

音楽も同じで、「演奏」という音楽表現を達成するためには、
いろいろと「非音楽的なプロセス」を乗り越えていかなければなりません。
「タンギングに関する物理的・技術的側面」は、まさにそれにあてはまります。

タンギングスキル習得のための大まかなポイントは、次の3つです。

  1. 「トゥートゥー」を声で練習する(※2)
  2. 楽器の音と連動させる
  3. タンギング時の舌の動きや場所、口の形などをビジュアル的にイメージさせる
    (※2)「ツー」「ター」等でもいいと思いますが、私は「トゥートゥー」をオススメします。

 

「タンギングは奥深い」と散々云っておいて申し訳ないのですが、それはひとまず置いておいて、
まずは上記事項をフィジカル(=肉体の物理運動)として生徒に学習させましょう。

小学校低学年でも指導方法によっては理解・習得可能かと思いますが、
学習タイミングについての言及は、まだここでは控えさせていただきます。

いずれにせよ「学習の効果」が見えないことには、生徒も先生も面白くありません。
次のステップである「音楽への連動」も、上手くいきません。

 

ここで「(鍵盤ハーモニカで)打鍵、タンギングどちらがいいのか」問題について、
もう一度考えてみましょう。

この問題、一見「2種類の発音方法があって困る」ことが問題のように思えますが、
実は「『学習の効果』が見えにくい」ことこそが真の問題なのです!

「鍵盤ハーモニカの音が鳴る」までに、演奏者は少なくとも4つの選択を(潜在的に)しています。

  1. 押鍵してからタンギング無しで吹く(フー)
  2. 打鍵で発音
  3. タンギングで発音
  4. どの音を吹く(弾く?)か(鍵盤の選択)

 

このことによって(・・・何とも説明が難しく、また語弊のある表現となりますが)

生徒にとっては「いろいろ出来てしまう」というか、
先生にとっては「判別が困難になる」というか、
いずれにしてもこの状況では、生徒も先生も「タンギングに集中」しにくいんですよね。

むしろ逆に先生は「鍵盤ハーモニカって、いろいろな吹き方をして楽しめるんだよ!」
ということを教えてあげた方が、いいのではないでしょうか?

小学校で初めて楽器に触れる子どもも多いと思います。
まずは、「楽器を楽しんで」欲しいです。

たとえそれが大人目線で「音楽表現」とは呼べなくても、
子どもにとってはそれが立派な「音楽表現」なのかも知れません。

 

また少し、話がそれてしまいました。

というわけで「タンギングの学習を効果的におこなう」ことのみを大まじめに考えると、
どうやらリコーダーのほうがタンギング学習には「向いている」といえます。

 

この長い文書も、ようやく終わりに近づいてきました。
ここまでの話を、何とか「提案」に昇華して、以下に組み上げてみます。

 

「小学校における効果的なタンギング学習について」

  1. 小学校低学年における鍵盤ハーモニカを用いた学習では
    「タンギングや打鍵」などを「あそび感覚」として体験させる。
  2. 小学3年生以降、リコーダーを用い「スキルとしてのタンギング」を学習させる。
    「スラー」や「スタッカート」などと組み合わせ、音楽表現と連動させる。
  3. リコーダーのタンギングが習得できた段階で、
    もう一度鍵盤ハーモニカによる「タンギング」と「打鍵」を、
    今度は「音楽表現」として学習する。

以上です。

果たしてこれが小学校の6年間で展開できるのかどうかはわかりません。

ただ、子どもの可能性は無限大ですので「子どもがどこまで出来るのか」という問題より、
学校側の時間的・カリキュラム的な都合のほうが問題でしょうね。

そして勿論教師側にもそれなりの知識・スキルが求められるところです。
ただ「可能性が無限大」という事に関しては、私は教師の方々においても同じだと思います。
そのために、私に出来ることがあれば、何なりとお手伝いさせていただきます。

本当に随分勝手なことをいろいろ書きました。
しかし「誰かが方向性を指し示すこと」は絶対に必要だと思い、書きました。

この文書が少しでも、何かの役に立てば幸いです。

小西恒夫

 

 

 

 

 

 

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